人生と山 part1

雑誌「LIFE」の写真管理部で働くウォルター・ミティ(ベン・スティラー)は、思いを寄せる女性と会話もできない臆病者。唯一の特技は妄想することだった。ある日、「LIFE」表紙に使用する写真のネガが見当たらない気付いたウォルターはカメラマンを捜す旅へ出る。ニューヨークからグリーンランドアイスランド、ヒマラヤへと奇想天外な旅がウォルターの人生を変えていく。


映画「LIFE!」 《人生が変わる》6分間予告篇 - YouTube


GWに渋谷の映画館で好きでもない女の子と、もそもそしたホットドッグを食べながら僕はLIFEを見ていた。 LIFEはそんなに出来の良くない映画だった。


典型的なマクガフィン(この映画ではネガ)を追い求め、妄想癖のある冴えない男が旅をする。 コメディとメロドラマと、ヒューマンドラマと冒険劇を乱暴に混ぜて売れる体裁を整えた映画だ。

だけど、そんなご都合主義のドラマ部分は全て置いておいて、圧倒的な映像美が胸を打つ。 海を、山を、噴火する火山を実に美しく捉え、私にささやくのです。


「いろんな世界を見に行こう」



そうだ、山手線の中で生活を完結している場合じゃない。 ましてや、今は数少ない休みだ! 映画を見終わった僕はいても立ってもいられなくなり、コールマンのリュックを背負い携帯を放り出して電車に乗りました。




20分後には、携帯中毒の禁断症状が発症し、手をプルプルさせながら大きな後悔の中に立ち尽くします。 大体、私は方向音痴だし、今はGWまっただ中でどこもかしこも人だらけでとても疲れるし、家族連れとかいっぱいいてこの年になって結婚してない自分がおかしい気がしてくるし、そういえばやり残してきた仕事有るし明後日は誕生日だしもう嫌だ。

そんなバッドトリップ全開で、東京駅から引き返そうか真剣に悩む私。



「まずは目的地を決めよう」


あきらめかけた時にそっとささやくLIFEの声に身を任せ、私は何とか前へと進んでいくのでした。


旅の続きはまた今度

サラダバーの天使

 4つ下の少女、Mと出会ったのは僕が大学生だった頃の話だ。「大学生の頃」というのは正確ではない。僕が大学に籍を置きながら怪しげな仕事に手を染めていた頃というべきか。その頃の僕は汚いものを見すぎたショックで頭がおかしくなっており、人間を、特に若い女を同類と認識できなくなっていた。

 ある日、朝5時の街角をぶらぶら歩いていると、でかいキャリーケースをゴロゴロ転がして少女が歩いてきた。どうみても幼いその少女は、夜と朝が交差する音のない街でも異質な存在だった。少女の生気のない頬を朝日が照らす。大きな意志の強そうな目でまっすぐにこちらを見据えて近づいてくる。その光景をただ眺めながら道の真ん中で突っ立ていると、少女は僕の前まで来て言った。

「邪魔なんだけど」

 そのとき、ipodからはSlaughterの"Fly To The Angels"が流れていたので、僕は適当に天使みたいだねお前と投げかけた。目の前の少女は吹き出し、こんな天使がいたら神様も大変だよと相づちを打った。随分と大きなスーツケースだね。と続けると、少女はタバコに火をつけながら言った。

「そうだよ ここには天使のすべてが入っているからね。」

 天使には家がなかった。三日分の着替えと商売道具、いくつかの生活用品。早朝のファミレスで和風ドレッシングをかけたサラダをまずそうにつつきながら、少女は天使のすべてを教えてくれた。スナフキンみたいでかっこいいねと僕が言うと、少女はあきれた顔で返事をした。

「君本当に変わってるね。家がないって言うと大体みんなかわいそうな目で私をみてから、泊まっていきなよとか言うんだよね。優越感と性欲にまみれた顔でさ。」

 だって俺はお前の境遇にも、ましてや体にも全然興味ないもん。そう本音を言うと、少女はじゃあ何で声をかけたのと問いかけてきた。そう言われると、なぜだろう。少女に魅力を感じたのは確かなんだけど、僕はどちらかと言えば年上が好きなタイプだし、大体そのころは上辺だけ着飾った意地汚いメスのことが大嫌いだったはずなのに。そうだ、きっと君の全体はゾンビみたいに生気がないのに、瞳だけが生命力にあふれていて、そのアンバランスな雰囲気にひかれたんだよ。

「よくわからないけど、ほめてはいないね」

 僕たちはそれからよく一緒に朝ごはんを食べるようになった。別に何を話すでもなく、お互い好き勝手に過ごしていた。僕は大概本を読んでいたし、彼女は絵を描いたり窓の外をぼうっと眺めていたりした。女と朝食を二人で、SEXをした後でもないのに食べているのは、しかもお互い無言で過ごしているのはなんだかとてもおかしい気がするけど、僕と彼女にはなぜだかとてもしっくりしていた。

 今思えば、あの儀式は僕たちに取って手を洗い、うがいをするのと同じだったのだろう。人はあまり意識はしないけれど、心もたまに洗ってやらなければ濁ってしまうのだ。多くの人はケーキを食べたり、人に愚痴を言ったり、そんな些細な事をして心を洗う。それでもキレイにならなくなったてしまったら二週間ばかり海外に行ったりすればいい。だけれど、あのときの僕たちはただ精一杯生きていてやり方も知らなかったから、あの偶然生まれた朝ごはんの一時間三十分はとても貴重なもので、それによって生かされていたのだと今は思う。

 あれから僕は大人になって、朝ごはんに変わる色々な方法を見つけ出した。きっと少女も同じなのだろう。それでも僕はふいにあのまずいサラダバーを彼女と食べたくなる時がある。

7UP

私は体が弱く、月に1度は必ず風邪をひく。
そのため、色々な医者にかかってきた。

あれは、もう5,6年前になるだろうか。
私は旅行でハワイに来ていたが、気持ち悪い、だるい、頭痛い、熱があるという悲惨な状態でホテルのベッドから動けなくなっていた。


たまらず近くの医者まで行くと、NBAのキャバリアーズのユニフォームを着て、
左手にびっしりとトライバルの刺青をした浅黒いサモア系のおっさんが、聴診器をぶらぶらさせながら私を出迎えた。


Hey, Boy!! 今日はどうしたんだい?

おっさんはこれから一杯飲みに行こうぜみたいな口調で、テンション高く私に話しかけた。HipHopのBGMがすげー似合いそうだった。


私はおいおいまじか、かんべんしてくれよ。こいつ本当に大丈夫か?などと思いながら、仕方なく体調を怪しげな英語で伝えた。


axe 「ah, my throat is painful..fever and pounding headache....feel sluggish. 助けて」


おっさん「ok, can u open ur mouse?」

とかなんとかやって、薬をもらう段になった。
日本だったら抗生物質と熱冷まし、頭痛薬にうがい薬のセットを貰えるはずだ。通院マニアの俺が言うんだから間違いない。

おっさん「んー、boyは風邪だね。」


axe「俺もそう思うわ。あと俺もう20才だからboyはやめてくれよメーン」



おっさん「いやいや、どうみても13歳だろ、20歳とか・・・え、マジで?」


axe「20歳だよ。いいから薬ください」


おっさん「whoa...アジアの神秘・・・薬なんだけど、いらないんじゃね?」


axe「はぁ?抗生物質と熱冷まし、頭痛薬にうがい薬のセットを貰えるはずだ。
通院マニアの俺が(ry」


おっさん「落ち着けよ、Baby。この程度でそんなに薬漬けにするの良くないぜ。これさえあれば十分だ!」


そうしておっさんは7UPを取り出しました。





axe「これは?」


おっさん「7UPを知らないのかい?とても美味しいよ☆」


axe「ジュースじゃねーか」


おっさん「そうさ、糖分が豊富に含まれている。だから食欲のない君にはぴったりだ。
炭酸のおかげでのどごしだって素敵さ。これ飲んで寝てれば治るぜ。キャバリアーズの優勝に誓って」


axe「今年、キャバリアーズは優勝できねーよ・・・」


その後、キャバリアーズは優勝できない理由について30分の説明、
薬をもらう交渉を15分くらいして頭痛薬と7UPをもらい、ひたすら飲んだのでした。



そうしたら、次の日風邪は綺麗サッパリ治った。
そして、悔しいことに7UPは美味しかった。
それ以来、僕は7UPを愛飲しています。



治ったとはいえ、おっさんは絶対やぶ医者だと思っていたんだけど、
後日、この話をアメリカ人にしたら風邪の時、コーラなどの炭酸ジュースを飲むのは
治療法として一般的だと教えられました。



アメリカ人ぱねえ。

ロックンロールの賞味期限

初めてデモテープを聞いて鳥肌がたった、3ピースのハードロックバンドがいます。



モノトーンの雰囲気をまとい、SEXピストルズよりも早く破滅に向かって疾走する、
「これぞロック」というその音源に、私は一撃で惚れ込んでしまうのでした。

しかもヴォーカルは女性です。
この本格派バンドが、近くメジャーデビューするんだ。
これは凄いことになるぞ。
日本の音楽シーンが変わるかもしれない。


その期待は、新木場のagehaで彼らのライブをこの目で見たことで確信へと変わっていったのでした。


それは夢のような時間でした。
野外に設営された小さなサーカスのテントの中を、50人も入れば一杯の一夜限りのライブハウスにし、 バンドと観客は一体となり、時間を忘れあらん限りの熱量を放出しました。



しかし、その後出てきた彼らのデビュー作は、もはやロックではありませんでした。


「売れ線」



レコード会社の制作スタッフの持つノウハウで、オリコンチャート上位に入りやすいように作られた、
似たような作品の群れの一つがそこにはありました。



元々、演奏技術も歌唱力も外見も、優れているとは言えないバンドです。
狂おしい青春の情動、叩きつけるしか無いエネルギー、彼らの魅力の全てはデビュー作にはありませんでした。



それから、7年が経ちました。



全くの偶然にそのバンドに今日再開し、彼らはインディーズでアナログのレコードを出すのだと聞きました。
私は祈るような思いで、レコードを回しました。でも、そこにはロックはありませんでした。